Research (Jpn)

高分子化学とナノ材料科学を基に、
生物に学び、生物と融合し、
そして生物を超える材料をめざして

生物は進化の過程で様々な機能を獲得し、生存競争を生き延びてきました。これら生物の持つ機能(特に表面機能)の原理を抽出し、そこから新しい材料開発のヒントを得ることができます。

例えば、ハスの葉の超撥水性は汚れの付かない表面コーティングに、
モルフォチョウの構造色は色あせない塗料の開発に、
ヤモリの手の粘着は貼って剥がせる粘着剤に、などなど。

これらの機能は全て、生物が分泌する様々な物質群とその表面構造の掛け合わせで実現されています。構造を使う戦略は、生物が少ない資源を有効活用するために採った有効な戦略と考えることができます。

また、生物はタンパクや糖類など、限られた元素からなる高分子を自己集合・自己組織化させることにより、これらの材料や構造を形作っています。

一方で人類は有史以来多様な素材から様々な機能材料を発明し、利用してきました。生物が利用でできない元素や化合物を用いることで、様々な特性を持つ材料を開発しています。例えば、撥水のためのフッ素コーティングや、ガラスレンズの多層膜フィルムなどは生物は利用できない元素やプロセスにより達成されています。

そこで、非常に高い機能性や性能を持つ人工材料と、生物が利用している構造デザインを組み合わせることができれば、今までに無い新しい材料が開発できるはずです。

当研究室では、①生物から得られたヒント(材料デザイン)を基に、②ナノ材料や機能性高分子などの合成物を、③自己組織化や自己集合という低エネルギープロセスで形作ることで、生物に学び(Biomimetic)、生物と融合し(Biohybrid)、最終的には人工材料と生物デザインにより生物を超える(Metabio)材料の作製を目指しています。

具体的な例をいくつか下記に示します。

【1】水滴を鋳型にした多孔膜と撥水・撥液材料の創製

疎水性の高分子溶液をキャスト製膜する際に高湿度の空気を吹き付けると、冬に窓ガラスに息を吹きかけたように、結露した水滴が溶液表面に形成されます。この水滴を鋳型として多孔膜を得るBreath Figure法と呼ばれる手法により、多様な高分子材料から多孔膜を作製する技術を開発しています。本技術は簡便にサブミクロン~ミクロンスケール(髪の毛の太さの10~100分の1)の微細な孔を高分子フィルムに開けることができ、企業と生産技術の開発に成功しています。

この「ハニカムフィルム」およびその上面を剥離して得られる「ピラーフィルム」は、ハスの葉の様に疎水性の凹凸構造を有しているため、非常に高い撥水性(超撥水性)を示す事を見いだしました。自然に学ぶプロセスを用いて、簡便に汚れの付かない表面の作製に成功しています。

ポリスチレンから作製した超撥水表面の電子顕微鏡写真。link

また、逆に表面を親水化することにより、水中で油や気泡をはじく超親水表面や、ピラーフィルムにフッ素系の潤滑剤を担持させることにより、食虫植物のウツボカズラの表面を真似て作られた「水も油も流し落とす(オムニフォビック)表面」の開発にも成功しています。

【2】カテコール系材料:ムール貝の接着分子から着想を得た接着・還元・炭素源ポリマー

ムール貝に代表される海洋付着生物は、高塩濃度の海水に揉まれながらも岸壁や船底にがっちりと接着します。これらの海洋付着生物はその接着部位から、側鎖にカテコール基を含む特殊な接着タンパクを分泌し、このカテコール基の作用によって多様な材料表面に接着しています。

カテコール類は生物一般に広く見られる化学モチーフであり、コーヒーに含まれるCafeic Acid(カフェ酸)やタンニン、リグニンなどにも含まれています。また、我々の体の中で神経伝達物質として働くドーパミンや、日本人が古くから使用してきた漆の主成分であるウルシオールもカテコール類です。

カテコール類を合成ポリマーに組み込むことにより、多様な材料表面に接着できる粘着剤や接着剤、カテコール基の持つ還元能を利用した金属ナノ粒子合成、プロトン伝導膜などの機能性高分子材料の開発を行っています。

また、ドーパミンが自己酸化重合して得られるポリドーパミンを焼成することで、触媒能を持つ炭素材料の開発も行っています。

ムール貝の接着分子「カテコール基」を組み込んだポリマーの模式図と、カテコール基の還元能を利用して合成した銀ナノ粒子の電子顕微鏡写真。link

【3】ウィルスの様な微細構造を持つ合成高分子微粒子

ウィルスはタンパク質と核酸、糖類からなる極めて精密にできた分子機械であり、これを人工高分子から作るのは至難の業です。一方で人工高分子の中には、固体中で水と油の様に相分離する材料があります。例えば2種以上の高分子を混ぜたポリマーブレンドや、2種以上の高分子が末端でつながったブロック共重合体などです。

これらの材料から微粒子を形成する「自己組織化析出(Self-ORganized Precipitation, SORP)法」を発明し、微粒子の中に相分離した微細構造を作ることで、ウィルスの様な表面・内部構造を持つ高分子微粒子の作製に成功しています。

電子顕微鏡による観察技術の発達や、数学者とのコラボレーションにより、精密な構造制御や予測を可能とする理論の構築も進めています。

また、これらナノ構造を持つ微粒子を機能化することで、電子ペーパーの色材や超高感度の分子センサーなどへ応用展開しています。特に貴金属ナノ粒子とコンポジットすることにより、屈折率等の光学物性を自在に制御できるメタマテリアルへの展開や、色素や抗原を結合した粒子を基に、医師や企業と協力して医療診断に貢献できる診断装置の技術開発なども行っています。

ウィルスの様な構造を持つ微粒子の電子顕微鏡写真と模式図。刺激に応答して分解する。link

【4】ヘモグロビンのヘム鉄に似た触媒分子

我々の血液で酸素を運んでいるヘモグロビンの活性部位であるヘム鉄は鉄錯体であり、鉄に酸素が吸脱着することで酸素の運搬が実現されています。人工物でこれに似た構造を持つ物質として、新幹線の青色顔料として知られている鉄フタロシアニンがあります。
この鉄フタロシアニン類縁体である鉄アザフタロシアニンを吸着させた炭素に電圧をかけると、酸素を還元して水酸化物イオンに変換する触媒として働くことを見出しました。酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)は燃料電池や金属空気電池の正極反応であり、従来白金炭素(Pt/C)触媒が使われていましたが、我々が見出した鉄アザフタロシアニン単分子層(Fe AZUL)触媒はPt/Cよりも高い活性と安定性を示すことがわかりました。
この知見を基に、その実用化のため東北大学発ベンチャーであるAZUL Energy(株)を設立し、その普及と高性能化、応用展開を行っています。

Fe AZUL触媒のイメージ図 link

【5】細胞外マトリクス環境を模倣する細胞培養基材

細胞は生体内でサイトカインなどの様々な液性因子やコラーゲンなどからなる細胞外マトリクスから様々な刺激を受けることで挙動が制御されています。近年、特に足場材料が細胞挙動に与える影響が検討され、細胞の接着・伸展・増殖・分化が足場の構造や力学物性により制御されることが明らかとなってきました。
我々は弾性率を制御したハニカム多孔体を細胞外マトリクスを模倣した足場材料とし、細胞の挙動を明らかとしてきました。特に幹細胞の分化制御は再生医療において欠かせない技術であり、新しい足場材料の構築とその機序の理解に貢献しています。

ハニカムスキャフォールド(足場)上細胞のイメージ図 link

その他にも、自己組織化による様々な材料の創製とその実用化に取り組んでいます。

当研究室で研究をしてみたい学生の方、共同研究開発をご希望の方は藪までご連絡ください。